メンバーインタビュー:アディルさん

人を知る

前回に引き続き、メンバーインタビューと題して、カザフスタンからの留学生アディルさんにお話を伺いました!
後半は、カザフスタンの宗教事情と、アディルさんの日本での生活についてです。

3.宗教と共産党
1)宗教について

アディル、この前、いろんな宗教の聖書を読んでいるって言ったじゃん。どうしてそれをやろうと思ったの?

無宗教よりは何かを信じたいかもしれないですね。でも、ちゃんと研究を行ってからでないと、自分も納得いかないから始めました。また、宗教は文化の前提の一つだと思っているから、勉強して損はないと思う。

でも、最近は忙しくて、やってないですね。そんなに進んでなくて、旧約聖書を読んだぐらいです。新約聖書もあるし、コーランも全体的に読まないといけないし、ちゃんとヒンドゥー教、仏教、そして、儒教もちゃんと勉強しないといけないし。東アジアでの、女性の立場は儒教に根があるんじゃないかと最近気になっていて。

カザフだと7割ぐらいがイスラム教?

僕は都会に住んでたから、僕が見て70%がイスラム教じゃないと思っていたのに、統計では70%がイスラム教だって出ていますね。やっぱり都会のほうがちょっと少ないかなと思っております。僕の家庭についていうと、おじいちゃん、おばあちゃんは、共産党に入っていたのですけど、共産党のイデオロギーでは、宗教はよくないので、信じてなかったんですね。それで、両親もあまり宗教を信じませんでした。

 イスラム教なら、結構男女格差が大きくない?

イスラム教をめぐるディスカッションでは、男尊女卑が強いという意見があるんですけど、実際にそれはイスラム教のものなのか、それともアラブ諸国の習慣なのかを見分けなくちゃいけないと個人的に思います。
例えば、イスラム教では女性は黒い服を着て、肌が見えないように覆わなくちゃいけないんですけど、それはコーランには書かれていないんです。考えてみると、砂漠への対策という目的で、どちらかというとアラブ諸国の習慣であって、イスラム教自体のものではないと、個人的な解釈をしてます。

でも、スンニとかシーアという、イスラム教に対して何か意見を出す権力がある組織があるので、それも確実に定義するのは難しいです。私は結構賛同的な視点で、コーランに書かれていないものはやらなくてもいいと思いました。男尊女卑も明確に書かれていないから、直せると思います。実態は、イスラム教の国と男女格差の相関関係があるんですけど、個人的には因果関係ではないと思います。 

2)ソ連と共産党について
今まで一番影響を受けた人とか、本とか思想はある?

『資本論』です。高校を卒業してから自分の興味で読みました。ウェーバーとか資本主義を支持するものも本格的に読んでないので、何か主張したいわけでもないんですけど、結構、衝撃を受けましたね。あらゆる社会問題を、違う階層の対立として考えても、何か納得いくという点がすごかったです。

アディルのおじいちゃん、おばあちゃんは共産党のイデオロギーをずっと信じていたの?

祖父母は僕が6歳のときにもう亡くなってしまいましたので、祖父母と直接話したことは少なく、両親から教えられたこともなくて、自分でいろいろ見て、読んでわかったんです。でも祖父母は結構信じていたと思います。おじいさんは孤児院で育ったので、自分のことを国、ソ連が助けてくれたという認識があったので、国に対しての感謝がすごくあったので、信じていたと思います。

おじいちゃんとおばあちゃん、あるいは両親がソ連の崩壊に関して何か言ってたのを聞いたりした?

祖父母からは何も聞いてないです。両親も結構、今の教育に対してもソ連教育に対しても批判的な考え方を持ってて、例えば、今の歴史の教科書は随分違うというのをちゃんと私に言ってくれて、また「私たちの子どものころのようにレーニンの本を50冊読みなさい」というのもよくないという認識もちゃんとあって、ソ連推しというわけでもないんですね。

ソ連時代の生活とか慣習が、カザフ社会においてとか、自分の周りや自分自身に受け継がれているものはあるの?

あんまりないです。違いとしては、ソ連時代の前と比べて、女性の立場がよくなったということがメインですかね。やはり、カザフスタンということが、今の生活がソ連時代の生活とかけ離れている大きな要因だと思います。

例えば、ロシアだったら、ソ連時代に憧れる人が多いんですけど、カザフスタンでは、ソ連支配の頃の政府の愚策によって、人口の3分の1が飢饉で亡くなったことがあって、単純に、ソ連時代に憧れられないですね。歴史の教科書でもロシアの歴史はあまりやってなかった気がしますし、ソ連に対して批判的な内容でしたね。
また、処刑もいっぱいあったんじゃないですか。実は、私の曽祖父の弟も銃殺されました。言語学者をやっていて、アラブ言語をやっていて、中国語とか日本語にも手を出していました。すると日本のスパイではないかという疑いで銃殺されたんですよ。

4.日本と留学
カザフスタンで日本はどんなイメージ?

若者はアニメなんですけど、親の世代はサムライと忍者。冗談として言うことが多いんですけど、海外から見て日本人は5種類いて、サムライ、ゲイシャ、忍者、オタク、ヤクザと(笑)。そう見られていますね。あまり、日本と、日本人との交流が少ないから、そういう表面的な知識しか持っていない人が多いですね。

日本に来て一番違和感を感じたこととか、驚いたこととかある?

自分でできないことが多いということに違和感を感じますね。例えば、外国人はクレジットカードをほとんど作れないですね。特に学生は、作れる可能性はゼロに等しい。あるところでは、外国人は信ぴょう性がないから収入が月30万ないと、学生は全然クレジットカードが作れません。

また、外国人の中で面白い経験談があって、日本の銀行でカードを作りたいなら携帯電話番号が必要で、携帯電話番号の会社で作ろうとしたらカードが必要で、両方作れないというので多くの人が困っているらしいです。いろいろと柔軟ではないところがありますね。そして、名前が片仮名で長くて欄に入らないとか、日常的に面倒くさいと思っている人は多いですかね。

日本の政治体制とカザフと比較して同じ点とか違う点ある?

ちゃんと、選挙によって物事が変わったりするなって思ったんですけど、日本も、自民党の政権が今まで多かったので、どこも理想的ではないと思いました。でも、地方分権がちゃんとできているというのがすごいよかったです。何かというと、日本の市町村では自ら条例を出すことができて、集権的な政府よりは結構いいと思いました。こういうこともあり得るんだなと思いました。

日本に留学することは、珍しい?「なんで日本に行くの?」とか言われなかったの?

周りには誰もいませんね。結構聞かれるんですけど、悪い選択肢でもないので。家では留学する時、特に反対されませんでした。高2の時、全然専攻も決まってなくて、親に相談しても、うちの親はすごい自由教育なので、私たちに聞くなと言われる。私たちがお勧めして気に入らなかったら、ずっと私たちを恨むから自分で考えなさいと言われました。それでも特に考え憑かなくて、卒業して1年間、何もせずに浪人みたいなことをやったんですけど、受験対策をしていたわけではなく、ただ人生どうやって生きるべきかを考えて、日本の留学をやってみようかなと思いました。

それを決めた大きな要因の一つは徴兵でした。18歳になると徴兵されちゃうんで、18歳にはどこか入学しないといかんなと思いました。日本留学のプログラムは結果が出るまで結構時間がかかって、結果が出るその時点ではもう遅いから、ちょっとカザフスタンの大学に申し込んで、そこで仮面浪人して、日本からの答えを待っていた。行けなかったら、そのまま4年間はカザフスタンの大学に進むんだけど、日本からOKが来たら日本に行くみたいな感じでしたね。

5.フェミニズム
フェミニズム研究会にも行ってたよね。そこに行ったのは何かきっかけがあったの?

そういう社会問題にすごい興味があるからです。中絶に関するアメリカの最高裁判所の判決をみると、やっぱり女性の権利とかジェンダー平等は、世界的にもまだまだだなと思います。女性は、地球の人口の半分ですよ。半分なのに、そんなに差別されていたら困る。せめて周りのみんなにどれほど重要なのかを、無視できないということを知らせたいなと思っております。みんな知らないと、問題意識がないと、解決できないから。そういう問題意識があって、そこから取り組もうかという感じで男女格差に興味を持ちました。

アディルからは、日本とカザフスタンの男女格差って、どんな感じで見えた?

日本は世界的にちょっとひどいほうかなと思います。周りの人に聞いた限りでは、カザフスタンでも考えられないことがあって。会社で女性社員がお茶を入れるとか、日本の常識では普通だったと思われているんですけど、海外の人から見れば「何だ、これ」という人が大半だと思います。それ以外でも、東大の男女比とか選挙に出る政治家の男女比とかいろいろ、まだやばいですね。

カザフでは、家庭内ではお茶を入れるのはあるんですけど、会社で求められることは一切ないと思います。そして、私も男性であるということを踏まえて、そんなに確信して言えないんですけど、ある程度日本よりましな面が多いと思います。でも、カザフもまだまだです。
ソ連の共産党のイデオロギーでは、結構、男女格差をなくそうというのが大きな柱でしたから、カザフスタンはソ連から独立して結構悪くない出発点だったと思います。でも、あれからそんなによくなっていません。でも今は意識が高まっていますし、これからよくなるだろうなと期待しています。

 おうちではご飯を誰が作っていたの?

もちろん、お母さんです。共働きなのに、いつも、掃除も、料理も、お母さんがやっていて、いろいろと考えるようになりました。あまり問わないぐらい自然ですね。例えばフェミニズムに詳しい友達に「おまえのうちはどうなの?」って聞いたら、ジェンダー平等な答えが返ってきて、すごい「ああ、今まで実感がなかったな」って言います。何で当然だと思ってきたんだろうなって、自分に疑問を持っていて。考えれば普通であるべきではないというのが、普通であるかのように自分も認めていて、すごいフェミニズムについて勉強しないといけないなと思いました。

6.民族とアイデンティティ
アディル自身はロシア語をしゃべるけど、民族としてはカザフ?

100%カザフです。うーん、実はアイデンティティークライシスなんですよ。自分の母語がロシア語で、ロシア文学に詳しい一方、カザフ文学も文化も言語もあまり詳しくないので。カザフ語を勉強したいんですけど、大学での勉強だけでもこんなに困っていますし、なかなか時間的な余裕がなくて。

そして、将来的に考えても、アジア言語の比較言語学をやりたいから、韓国語とか中国語を学ぶ意味はあるんですけど、カザフ語を勉強するとしても、やっぱり自己満足のためで、将来のキャリアにはつながらないことが大きな障害ですね。自分的には頑張りたいとは思いますけど。
アイデンティティ関連で、最近は国民国家のナショナリティとしてカザフスタン共和国の国民という国民意識が湧いてきています。最近ロシアも変なことをしてますし、ウクライナと同じようなことがカザフスタンにいつ起きても分からないという状況なので。

民族間の対立とかあるの?

時々あります。そういうことが起きると、ニュースがすごい大きくなっちゃって、過激化します。最近は結構、ロシアと色々ありますね。Twitterで見かけたんですけど、ロシアから撤退したマクドナルドやスターバックスを求めて、ロシア人がカザフスタン北部にいくそうです。そこで、多くのロシア人がどうしてカザフスタンでロシアのお金で精算できないのかとか、どうしてカフェに行って店員がロシア語で対応してくれないのという疑問をもつらしいです。別に違う国なので、当たり前ではないかって思うんですけど。すごい、カザフスタンにロシアの続きみたいに期待する人が多くて。

アイデンティティークライシスは、ロシア情勢の影響で最近高まったの?

最近ロシア文学を読んでも、「俺、何でロシア文学を読んでるんだろう」と思っちゃいます。カザフ文学を読まなくちゃいけないところなのにっていう感じです。自分の民族の言語を話してないといろいろと難しいんですね。またロシアはいろいろとやってるから、普通にロシア語を話しているときも罪悪感が湧いてきて。

ウクライナの情勢がそうなってから、罪悪感が湧くようになりました。結構、知り合いのウクライナ人がひどい経験をして、昔は僕と同じようにロシア語がメインだったのに、ウクライナ人の友人がロシア語を話せなくなったというか、話したくなくなったということも聞きます。すごいウクライナ語で頑張って話してるというのがありました。その人は自分にそういうつらい思いをさせた国の言語を話したがってなくて、僕もロシア語を話していていいのかと思いますね。
今まで、どうして僕はもっと努力してカザフ語を学ばなかったのかというのが罪悪感になっちゃう。ロシア語で話し続けることで、もっとロシア語を広めるはめになって。もうちょっと頑張れたんではないかという。いろいろと難しい、説明しにくい。

編集後記

インタビューはくだけた雰囲気で行われた。長い時間続いたが、ちっとも退屈じゃなかった。きっとアディルの面白い性格と楽観的な思考がそういう空気を醸成していたのだろう。
普段互いにじゃれあっていた友達に、こんなに深奥な考えがあるとは思わなかった。彼の考えの奥深さをできる限り伝わるように努力したが、彼独特の魅力を全部込めることはできなかった。インタビュー前までは、アディルのことなど、分かり切ったものだと信じていた。インタビューを通じて内情を知ってから、いろいろ話しながらもっと仲良くなれたと感じる。これが話を聞くことの力ではないだろうか、と思う。

qing liu