~ワークショップ取材~
2023年6月17日、昨年9月に引き続き、「日中未来創発ワークショップ」が静岡県の沼津で開催されました。今回のテーマは「海のプラスチックごみ問題」で、海辺の地域である沼津を舞台に海洋ごみの実情を見学したり、参加者同士で解決に向けた議論を交わしたりしました。参加者である大学生は日本人と中国からの留学生で構成されており、日中という国を越えた協力や解決策について議論が行われました。本記事ではワークショップ当日の様子をご紹介していきたいと思います。
8:30 東京駅集合
朝の8時30分に東京駅にてほとんどの参加者が集合しました(一部参加者は現地集合でした)。多くの参加者が東京周辺の大学に通っており、東京駅から新幹線で三島駅(静岡県)に向かいます。まだまだ知らない人同士でぎこちなく知り合いの人とばかり話してしまいますが、新幹線の席はくじ引きなので積極的に初めての人とも話せる機会があります。諸注意を運営の山田さんから聞き、9時過ぎの新幹線に乗り込みました。
10:45 牛臥海岸到着
11時前に沼津の牛臥海岸へ到着しました。新幹線を降りた三島駅からは想像もできないほど、開放的で綺麗な駿河湾の景色が青空のもとに広がっています。ここでは実際の海岸で海洋ごみの実情やボランティアのごみ拾い活動についてお話を伺いました。
写真は毎週日曜日に牛臥海岸の清掃活動を行う、「地球🌎をきれいにする会」で代表を務める尾澤さんです。私たちがお伺いした日の翌日でちょうど104回目の清掃活動を実施するということで、当日も普段行われている漂着ゴミの拾い方や主催団体について詳しく教えていただきました。今回訪れた牛臥海岸では、特に雨や台風などの直後に流木などを含む様々なゴミがよく打ち上げられるとのことで、私たちが訪問した日の1週間ほど前にも台風が通過していたので漂着ごみが散見されました。尾澤さんのお話によると、昔に比べて最近はプラスチック製のごみが増えてきており、環境問題の観点で燃やすこともしてはいけないので「地球🌎をきれいにする会」のみなさんが毎週様々な種類のごみを集めて処分しているそうです。尾澤さん曰く牛臥海岸の最終的な理想の姿は、ずばり「裸足でも歩けるビーチスポーツの聖地」だそうです。ビーチスポーツなどで利用者が増えれば、利用者による清掃も期待できるとか。
それでは僕たちも実際にごみ拾い体験に参加してみたいと思います!
ごみはペットボトルや壊れた缶、流木、プラスチック製品など様々ですが、意外と一つひとつは小さい印象でした。これを海の生き物が食べたりしたらなかなか危険だとも感じました。
11:20 主馬(休憩所)へ移動・ごみ拾い体験や尾澤さんのお話を振り返り
牛臥海岸にほど近い沼津御用邸公園のなかにある「主馬」という休憩所に移動しました。非常に天気に恵まれ暑い中でごみ拾いやお話をお聞きしたので、ここでほっと一息つけました。フリーアナウンサーの高橋さんが司会になり、まずポストイットを使って参加者各々が感想や思ったことを出し合う振り返りの時間でした。
11:45 カードゲーム「CHANGE FOR THE BLUE」へ
振り返りのあとは、環境問題、中でも河川や海の環境問題の現状についてファシリテーターの石川さんからご説明がありました。プラスチックボトルは分解に450年もかかるため長い間、自然界に残ることやごみを食べた生き物を人間が食べることで、健康被害が出る可能性があったり、ごみが海岸に散乱することで観光客も減少したりするなど、様々な実害を知ることができました。このような問題の解決を考えるために、あるカードゲームをプレイしてみました。その名も「CHANGE FOR THE BLUE」です!このゲームでは、ある町の市民意識・技術・便利・ごみ汚れのパラメータが与えられ、最終的にはごみ汚れの値を少なくすることが目標です。各グループごとに役割(例えば、自治体やボランティア、TV局などの団体)が与えられ、その役割に合わせてアクションを二つ毎ターン選びます。すると町のパラメータによって、それぞれのアクションに対して結果カードが与えられます。この結果カードはその後のパラメータを左右します。こうしてパラメータが変動する中で、様々な役割の人がごみ削減を目指すということですね。
最初はグループ内での話し合いに終始していましたが、ターンを追うごとに慣れてきた参加者の人たちは、よりよい結果カードを獲得できるように情報共有もしていました。そしてこのゲームを通して感じたことは、「各役割の人が状況に合ったアクションを足並みそろえて選ばなければいけない」ということです。たとえ素晴らしいアクションだとしても、市民意識が高くなければ効果のないアクションなどがあります。つまり適切な順序で進めることが大事だということですね。こうして今回の参加者で達成できた成果がこちらです!どうやらごみを減らすと、利便性も低下するという傾向にもあるのかもしれないです。
12:30 昼食
待ちに待った昼食の時間です!様々なおかずにご飯はおかわりまで用意していただいておりました。朝早くから集合してワークショップに来た参加者みんなが、お腹いっぱいいただくことができました。また給水用のお水も沼津ならではの工夫がありました。それは富士山の地下水をくみ上げている沼津市の美味しい水道水です。水道水とは思えないほど、自然で飲みやすくのどの渇きが一気に癒されました。
13:45 東付属邸へ移動
昼休憩を終えて参加者がやってきたのは、かつて避暑地として皇族の方々に使われていた東附属邸です。ここでは今回のワークショップの講師である塩入先生が登壇され、海洋問題をテーマに日中協力について学生同士のディスカッションが行われます。
14:00 塩入先生、講演
まずは長年笹川平和財団で海洋ごみの問題を研究されてきた塩入先生から、改めて海洋ごみの問題についてご紹介していただき、先生が瀬戸内海で取り組まれていらっしゃるプロジェクト「オーシャンズX」についてお話していただきました。瀬戸内海という地域は外海から閉鎖された環境であり、河川から流れ込むごみによってその汚染が拡大しています。この地域を舞台に海洋問題を解決するプロジェクトに成功すれば、他の地域でも人の活動によって汚された海を再び綺麗な姿に戻す手助けになるかもしれないということです。そうして始まった「オーシャンズX」は、瀬戸内海地域の異なる県の協力を仰ぎつつ、河川からのごみの流入を7割減らし、出したごみも回収するということが行われています。
14:30 グループディスカッションへ
講演が終わるとそれぞれのグループに分かれてディスカッションへと移りました。
先生のお話を聞いて、「海洋ごみ問題の解決のために日中(企業間)で何ができるのか?」をテーマにディスカッションを始めます。まずはグループ内でのブレインストーミングからみんなでアイデアを出し合いました。自由な話合いと休憩の意味も含めて、屋外を散歩しながら参加者は意見を交わします。帰ってきたグループは、まずそれぞれ個人で考えをまとめ、グループ内での話合いグループ全体としての解決案の方向を決めます。
15:30 他チームとの意見交換
一度固まった意見をもって他のグループとシャッフルし、意見交換を行いました。こうすることでより客観的な意見が取り入れられ、自分たちの解決策の弱点や曖昧な部分が明確に浮かび上がってきました。そしてその反省点や弱点などを克服すべく、さらにグループに戻って話し合いが続きます。
16:00 ディスカッション成果の発表
合計10個のグループが自分たちの班で話し合い至った解決策を発表します。特に今回の発表で重要だったのは、日中企業間での連携という点でした。これは国や政府といった行政主導ではなく、民間主導の連携が必要であるという笹川平和財団の考えから来ています。
発表のあと最後に塩入先生、田中先生、石川先生からの講評をいただき、今回のワークショップのメインイベントは終了となりました。
17:00 写真撮影・移動開始
東附属館内で全体の集合写真を撮り、三島駅行きの帰りのバスへ乗り込みました。
長かったようで牛臥海岸でごみ拾いを行ったり、カードゲームで海洋環境のシミュレーションを体験したり、日中協力のためのグループディスカッションをしたり、非常に目まぐるしい一日でした。最後に参加者の感想も添えさせていただきます。
東京大学3年 文学部 星野さん
ーー今日のワークショップはどうでしたか?
海洋研究についての最新の専門知識に触れられました。
ーー留学生も交えたグループディスカッションについて、なにか違いなど感じたことはありましたか?
自分は特に日本人学生も留学生も考え方などに違いはなかった印象です。ただ留学生の方がよりはっきり意見を発言していた気もしました。グループ内のバランスのためにも、いろんな人を当てて意見を出し合いましたね。
東京大学2年 王さん
ーー今日のワークショップはどうでしたか?
東京大学だけではなく、早稲田大学やその他様々な大学やバックグラウンドの人が参加していて、日本人・留学生が満遍なくいました。
グループディスカッションでは同じグループの人が、助けてくれたので不自由なく一緒に議論することができました。
文責:工藤怜