この記事は、筆者が大学の授業にて作成したローカルメディアを基に加筆修正をしたものです。
- ~はじめに~
- ~ウイグルレストラン シルクロード・タリム~
- ~このお店のおすすめ料理~
- ~店員さんへのインタビュー~
- ~タンドールマスター シルクロード・ウイグル料理~
- ~このお店のおすすめ料理~
- ~店員さんへのインタビュー~>
- ~お店で使える?!ウイグル語集~
- ~おわりに~
~はじめに~
みなさん、ウイグルと聞くと何を思い浮かべますか?シルクロードの中継地点、新疆綿の産地、モンゴル文字に影響を与えた古ウイグル文字などの様々なイメージがあると思います。今回は、意外と身近なところにある私たちの知らないウイグル料理について、なかなかに日常では食べる機会の少ない羊肉を使った料理や辛さという目線から迫っていこうと思います。
~ウイグルレストラン シルクロード・タリム~
まず、一軒目のウイグル料理のお店はこちら!「ウイグルレストラン シルクロード・タリム」さんです。現在は東京都内では、後ほど二軒目として紹介する四谷坂にある「タンドールマスター シルクロード・ウイグル料理」さんのように、新しくウイグル料理店が開店することも増えています。(エスニック料理巡りが趣味の筆者としてはうれしい限りなのですが) しかしこのお店は、2010年にオープンしていて、おそらく、東京23区内にあるウイグル料理のお店としては、一番古くから営業されているようです。そのため、筆者が取材に行ったときも、台風接近の影響で帽子が風で飛ばされるほどの荒れた天気の日だったのにも関わらず、多くの日本人のお客さんや、中国系のお客さん、ハラールであることからムスリム、ムスリマの方たちも訪れてウイグル料理を談笑しながら楽しんでいました。この西新宿の地域で愛される隠れた名店になっているのかもしれません。
~このお店のおすすめ料理~
توخۇ قورۇمىسى (toxu qorumis) トホ・コルミス
辛さレベル【★★★☆☆】
トホ・コルミスの「トホ」とはウイグル語で「鶏肉」の意味で、「コルミス」は「炒め物」という意味です。この料理は鶏肉の辛口炒めで、花椒の辛さがありますが、甘酸っぱくてとても箸が進みます。途中で具が少なくなってきたら、きしめんを入れて食べても、甘辛い味がきしめんに絡んでおいしいです。この料理は別名「大皿鶏(ダーパンチー)」とも言い、元々は、回族の料理が由来です。それが伝わり、今でもウイグルの人たちや中国の人たちの間で食べられています。
پېتىر مانتا (pétir manta) ぺティル・マンタ
辛さレベル【☆☆☆☆☆】
ぺティル・マンタの「ぺティル」とは「発酵させてない練り粉」という意味で、「マンタ」は「肉まん」という意味です。生地の中には羊肉がつめられていて、味付けは塩と胡椒でシンプルなのですが、羊肉の肉汁がとてもジューシーで何もつけないで食べても十分おいしいです。筆者のおすすめの食べ方は黒酢を少しかけて食べること、そうするとより肉の味が引き立っておいしいです。写真から分かるように餃子や小籠包に似ていて由来は同じだと考えられています。シルクロードを通ってもっと西の中央アジアやトルコにも類似のマントゥ(トルコ語:mantı, カザフ語:манты)という料理が伝わっています。
گۆش نان (gösh nan) ゴシ・ナン
辛さレベル【☆☆☆☆☆】
ゴシ・ナンの「ゴシ」とは「肉」という意味で、「ナン」は「ナン」または「パン」という意味です。このゴシ・ナンは、生地の中に羊肉のミンチと玉ねぎを詰めて、オーブンで焼いた料理です。そのため、ウイグル風の羊肉のミートパイともいえるでしょう。これもまた味がシンプルで羊肉のジューシーが際立っているのですが、生地の端がサクサク触感でカリっと焼きあがっているため、肉のジューシーさと触感も楽しめます。ちなみ、インドでのナンと違って、ウイグルや中央アジアでのナンは、このゴシ・ナンのよう円形で作られます。
پىنتوزا قوى گۆشى قورۇمىسى (pintoza qoy göshi qorumis) ピントザ・コイゴシ・コルミス
辛さレベル【★★☆☆☆】
ピントザ・コイゴシ・コルミスの「ピントザ」は「春雨」という意味で、コイゴシは「羊の肉」という意味で、先ほどあったように「コルミス」は炒めものという意味です。名前の通り春雨と羊肉メインにピーマンやパプリカ、ジャガイモを甘辛く炒めたものです。見た目ではトホ・コルミスと似たような味付けに見えるますが、すこし酸味が感じられて、味のアクセントに生姜が入っています。この料理もトホ・コルミスのように途中できしめん風の平麺をいれても美味しいです。
زىخ كاۋاپ (zix kawap) ジヒ・カワプ
辛さレベル【★☆☆☆☆】
ジヒ・カワプの「ジヒ」とは「串」という意味で「カワプ」は「ケバブ、焼肉」という意味です。やっぱりウイグル料理といえば、これ!羊の串焼き!肉の表面にクミンや花椒などのスパイスをかけて焼いているため、肉の臭みも飛び、少しピリ辛で爽やかな風味になっています。この肉を串に刺して、焼いて食べる料理は、シルクロード中心に、中東やトルコにも伝わっていて、それらの地域では「シシケバブ」と呼ぶことも多いです。ちなみに羊を食べるのはちょっとという方には、鶏肉のカワプもあります。
~店員さんへのインタビュー~
忙しい中、ウズベキスタン出身のTさんにインタビューに答えて頂きました。「なんでウズベキスタン出身の人がウイグル料理店で働いているんだ?!」と思った方もいるでしょう。ウイグルとウズベクは、言語の面ではお互い七割近くの内容が理解でき、民族的にも近いそうです。筆者も彼に話しかけるときにウイグル語を使ったのですが、最初に帰ってきた反応が「なんでウズベク語知っているの?!」でした。なので日本で働く際、ウイグル料理のお店で働くことも多く、ここでもウズベク系の方が彼以外も働いているそうです。
Ⓠ 日本にはどれくらいいるのですか?
Ⓐ 自分はウズベキスタンの中でも、ナンマガンというフェルガナ盆地にある都市出身で、今、日本に来てから一年半くらいです。日本にはITとビジネスを勉強しに来ました。
Ⓠ この店のおすすめ料理はなんですか?
Ⓐ やっぱり一番おすすめなのは、ポロですね。
今回、おすすめのポロは、満腹で食べられませんでしたが、是非この記事を読んだ方は頼んでみてください。
~タンドールマスター シルクロード・ウイグル料理~
二軒目のお店はこちら!「タンドールマスター シルクロード・ウイグル料理」さんです。こちらのお店は、さきほどの一軒目の2010年からある比較的長く営業されている「ウイグルレストラン シルクロード・タリム」さんに対して、二〇二三年の十二月に新しくオープンしたお店です。
このお店は、同じ「タンドールマスター」という名前で新大久保で営業している「ウズベク料理店」の系列店です!先ほどのTさんのインタビューでもあったように、ウイグルとウズベクの文化や民族の近さを感じますね。
このお店は、新しく開業したこともあって、まだあまり日本人に知られていないせいか、中国系のお客さんが多かったです、そのため、店員さんも漢民族系の方も多く、店員さんもまずは中国語で対応を試みることが多いです。(もちろん日本語で話しかければ対応してくれますよ!)
最近はスマートフォンでQRコードを使って注目できるのようになったので言語の壁も低くなりました。
加えて、比較的空いていることから、近くにある大学の友達と何人かで行って、結構長居をしてしまうことが多かったです。しかし、今回取材に行ったときは、比較的日本人のお客さんも開店当時から増えていて、(当時は一回も日本人のお客さんを見ないこともありました。) それも仕事帰りにスーツのまま、立ち寄っている人が多かったです。これから、どんどんとこのお店が隠れたウイグル料理の名店として広まっていってほしいですね。(筆者として今の隠れ家的なのがすきだったりもするのですがね)
~このお店のおすすめ料理~
زىخ كاۋاپ (zix kawap) ジヒ・カワプ
辛さレベル【★☆☆☆☆】
ここのお店のジヒ・カワプは、肉の一つ一つが大きく、肉質もよくジューシーで食べ応え抜群!ここでは、普通の羊のジヒ・カワプだけではなく、なんと羊の肝臓や心臓などの内臓のジヒ・カワプも扱っているんです!ここでみなさんは、「え?内臓?やっぱり、独特の臭みがあるんじゃないの?」と思った方が多いと思います。しかしそれは全く異なっていて、羊の肝臓のケバブはとても肉が柔らかく、レバーだと血生臭さを感じることもありますが、ここのものは、まったく血生臭くなくむしろ、ほどよい甘みがあります!心臓のケバブは、筋肉質でコリコリとして程よい硬さでありながら、とてもジューシーです!
پولۇ (polu) ポロ
辛さレベル【☆☆☆☆☆】
ポロは、お米と羊肉、にんじんなどの具材をクミンなどのスパイスとともに油で炒めた料理です。油でお米と具材を炒める料理と言えば、炒飯が思い浮かぶかもしれません。けれど作り方が違っていて、炒飯では一度ご飯を炊いてから、他の具材と炒めますよね。ポロの場合、先に具材とスパイスを多めの油で炒めてから、そこに生のお米と水を入れて一緒に炊き上げるという作り方をします。なので、スパイスや、具材の風味がよくお米にとても染み込みます。ただ、炒めるときに多めの油を使っているので、脂が多いものが苦手な方の場合は、もしかしたら合わない可能性もあるのでご注意を
ちなみに、ほかの地域でもポロに似た料理が存在していて、トルコ料理ではピラフ(トルコ語:pilav)、中央アジアでは、プロフ(ロシア語:плов)やパロフ(ウズベク語:palov)という名前の料理があります。
ئىلى قىيما لەغمەن (ili qitma leghmen) イリ拌麺
辛さレベル【★★☆☆☆】
名前は「イリ拌麺」と言いますが、ひき肉のラグマンです。ラグマンとは、ウイグルの伝統的な手延べ麺で、少し日本のうどんのように見えますが、しっかりとコシがある麺が特徴です!加えて、このお店では一から手作りの麺を使っています。普通のラグマンとの違いを言うと、普通のラグマンは、大き目に切った羊肉、玉ねぎ、ピーマン、パプリカ、唐辛子などの具材を甘辛く炒めたて、麺の上にのせていて少し汁気があります。一方でひき肉のラグマンは、同じような具材をより細かくしてから炒めてのせています。そのため普通のラグマンよりも汁気は少なく、より麺に具材が絡んで食べやすいのと、細かい具材の食感も楽しめます。
大盘鸡 ダーパンチー
辛さレベル【★★★☆☆】
名前は「大盘鸡(ダーパンチー)」となっていますが、基本的な味付けや材料の面では、さきほどの一軒目の「トホ・コルミス」とほとんど変わらないです。何が違うかと言えば、ウイグル語名で呼ぶか、中国語名で呼ぶかの違いですね。こちらのお店の「ダーパンチー(トホ・コルミス)」は、注文すると一緒に写真内のお皿の端にあるように、切られた丸形のウイグルのナンが一緒についてくるのと、すでにウイグル風きしめんも中にある状態で出てきます。なので、ダーパンチーの具材単体だけで食べるもよし、きしめんと一緒に食べるもよし、ナンのダーパンチーの汁に付けて食べてもよしの三通りの食べ方ができます!!
سامسا (samsa) サモサ
辛さレベル【☆☆☆☆☆】
サムサとは、羊肉と玉ねぎのみじん切りを小麦粉の生地で包んで焼いた料理です。この料理は、ウイグルだけではなく他の中央アジアの地域でも食べられています。加えて、バザール(市場)や露店でも売っていることが多いため、日本で言うコンビニのホットスナック感覚で食べられるそうです。(昨年の夏に新疆ウイグル自治区に行ってきた筆者の中国人の友達談)味付けとしては、すごくシンプルでクミンと塩コショウがベースで、辛い料理の合間に食べると、辛さのバランスが取れてちょうどいいです。ちなみに、インドの方にもサモサといい類似の料理があるのですが、こちらは、焼くよりも揚げて作る方が多いです。
~店員さんへのインタビュー~
今回、この「タンドールマスター シルクロード・ウイグル料理」さんでは、店員のAさんにインタビューにお答えいただきました。
Ⓠどこ出身なんですか?
Ⓐ新疆ウイグル自治区の西の方にあるカシュガル(喀什地区)ですね。
Ⓠ日本に来ることにしたきっかけはなんですか?
Ⓐギターをもっと学びたくて来ました。
Ⓠこのお店のおすすめ料理を教えてください
Ⓐラグマンなどの麺類ですね。
彼は、ときどき人が少ないときなど時間があると、カウンターの後ろにおいてあるアコースティックギターを持ってきて弾いてくれるのですが、その演奏はプロ並みで、驚くほどうまいです。他にも前には、カシュガルから北東に行ったアクス(阿克苏)出身の店員さんもいて、その方は日本で映画監督の勉強をしているとおしゃっていました。なぜか芸術系の人が多く働いている「タンドールマスター シルクロード・ウイグル料理」さんでした
~お店で使える?!ウイグル語集~
飲み物関連
سۇ (su, ス)水
سوغۇق سۇ (soghuq su, ソグク ス):冷たい水
چاي (chay, チャイ):お茶
قارا چاي (qara chay, カラ チャイ):紅茶 (直訳だと「黒いお茶」)
كۇۋاس (kuwas, クワス):クワス
پىۋا (piwa, ピワ):ビール
※注意:基本的に水を頼むと常温の水が出てくることが多いので、冷水が欲しい場合は、冷たい水と言いましょう。
(クワスとは、ロシア由来の麦類の発酵飲料です。)
食べ物関連
نان (nan, ナン):ナン
پولۇ (polo, ポロ):ポロ
سامسا (samsa, サムサ):サムサ
گۆش نان (gösh nan,ギョシュ ナン):ゴシナン
لەغمەن (leghmen, レグメン):ラグマン
توخۇ قورۇمىسى (toxu, qorumis, トフ コルミス):大盤鶏
مانتا (manta, マンタ):肉まん
سىركە (sirke, スィルケ):黒酢、酢※
زىخ كاۋاپ (zix kawap,ジヒ・カワプ):羊肉の串焼き
※سىركە (sirke, シルケ)とも言いますがئاچچىق سۇ(achchiq su, アチチック ス)、直訳すると「刺激的な水」のような言い方もあります
数詞関連
بىر (bir, ビル):1
ئىككى (ikki, イッキ):2
ۈڅ (üch, ユチュ):3
تۆت (tot, テョット):4
بەش (besh, ベシュ):5
ئالتە (alte, アルテ):6
يەتتە (yette, イェッテ):7
سەككىز (sekkiz, セッキズ):8
توققۇز (toqquz, トックズ):9
ئون (on, オン):10
助数詞
زىخ (zix, ジヒ):~本(串)
تەخسە (texse, テヘセ):~皿
ئىستاكان (istakan, イスタカン):~杯
挨拶関連
こんにちは:ياخشىمۇسىز(yaxshimusiz, ヤフシムスィズ)
すみません:كەچۈرۈڭ (kechürüng, ケチュリュン)
ありがとうございます:رەخمەت (rexmet, レフメット)
美味しいです:تەملىك (temlik, テムリク)
使える表現
~はありますか?:-بارمۇ؟ (-barmu? ,-バルム?)
例文:كەچۈرۈڭ سىركە بارمۇ؟ (kechürüng, sirke barmu?)
(ケチュリュン スィルケ バルム?)
すみません、黒酢はありますか?
~を注文したいです:-بۇيرۇتماقچى ئىدىم (-buyrutmaqchi idim, -ブイルトゥマクチ イディム.)
例文:قارا چاي ۈچ ئىستاكان بۇيرۇتماقچى ئىدىم (qara chay üch istakan buyrutmaqchi idim)
(カラチャイ ユチュイスタカン ブイルトゥマクチ イディム.)
紅茶3杯、お願いします。
~は何ですか?:نەمە؟ (-neme, -ネメ?)
例文:بۇ نەمە؟ ئاچچىق مۇ؟ (bu neme? achchiq mu?)
(ブ ネメ? アッチクム?)
これは何ですか? 辛いですか?
~おわりに~
様々な情報てんこ盛りでお送りしましたが、どうしょうか?ウイグル料理に気を持っていただけましたか?今回紹介したお店以外にも東京にはウイグル料理店がまだまだあるので、機会があったら是非足を運んでみてください。
【写真・文責】多田太良