のほほん日本留学-ウェイさんインタビュー

人を知る

〇現代病?コスパタイパ社会

コスパやタイパが喧伝される現代日本。いかに幸福な人生を効率よく生きていくか、というのは学生のみならず国民皆が考えるところでしょう。この記事を読んでいる大学生・専門学生の皆さんも、最短経路・最小工数でより良い将来を手に入れるべく苦心しているのではないでしょうか。当然悪いことでもなければ、記事執筆者の私もその一人です。

そのような社会情勢の中、どこか面白い雰囲気を漂わせる留学生に出会いました。名前はウェイさん。ウェイさんは早稲田大学・日本語教育研究センターに所属する留学生です。興味深いのはこれまでの経歴。なんと中国の复旦大学で医学部を卒業、医者免許と修士号まで取っているのに、日本に留学しに来たのです。しかも学位取得を目的とせずに!コスパ至上主義の世界観からすれば、真っ直ぐ順調な人生を歩んでいるのに“非効率的”で、不思議でたまりません。今回はそんなウェイさんにインタビューを通して、人生設計について考える機会をいただきました。

インタビューに赴いてくださったウェイさん。日本ではミドリさんと呼ばれているらしい。

-ウェイさんの経歴を改めて教えていただけませんか?

「日本に来たのは去年です。早稲田大学の日本語教育センターに通って、日本語の勉強をしています。」

「上海出身で、ずっと上海に住んでいました。中学高校も上海。あの時は医学部を目指す、気の強い優等生でした。大学は复旦大学です。中国でもトップ5の名門ですよ。医学部を卒業した後は大学院に行きました。そこで実習をしながら、腎臓病の研究をしていました。」

-医者になることが将来の夢だったんですね。なぜ?

「エリートになりたかった。お金にはあまり興味がなかったですが、中国でも医者は偉いのでエリートなんです。中学1年生の時からずっと医者を目指していました。中学高校もずっと勉強していました。中国の受験は大変なので。大学に入ってからも勉強ばかりの地獄生活でした。」

「中国の偉い医者はみんな修士や博士です。医学部で5年勉強して、その後は修士課程を3年です。私は修士の研究をしながら研修医です。だからずっと勉強です。」

-色々と夢を叶えてすごいじゃないですか。動機は小学生らしくないですが…

「本当にエリートになりたかった。精神年齢20歳の小学生だったんですね。親には医者に向いていないと言われましたけどね。」

 

〇エリート街道からの寄り道

-医者に向いてないって言われたんですか?親に?

「私はおおざっぱな性格だから、医者には向いていないと言われました。」

「医者は大変です。夜勤は女性の私には耐えられなかった。勉強することもたくさんで、実習中は毎晩のように泣いていました。」

大学院を卒業した時のワンショット。

 

-確か、ウェイさんが研修医なのはコロナ禍真っただ中の時期ですね。

「とにかく体力が足りなかったです。具合も悪くなっちゃって。コロナで病院がとても忙しかった。」

-それは医者を断念しますね。とはいえ、その後中国で他の仕事を探すでもなく、博士号を取るでもなく、どうして日本に留学しようと思ったんですか?

「日本が好きだからです。直感的に好きで、小学2年生の時にもらった日本のお土産のラッピングが繊細で気に入りました。それからずっとです。中学生の時、日本に10日間ぐらい勉強しに来ましたが、街の風景も繊細で好きです。大学生の時は年に2回ぐらいは日本に遊びに来ていました。」

-今まで順当に夢を叶え、エリート街道まっしぐらだったのに、葛藤は無かった?普通は大学院卒業して留学なんて、親に怒られちゃいますよ。

「なかったです。医者にもなりたかったし、日本にも行きたかった。ギャップイヤーですね。両親も応援してくれています。友達からは羨ましがられました。」

-なるほど、日本留学自体も長年の夢だったんですね。本当に日本が好きだから来た?

「本当です。直感的に日本が好きなんです。もしかしたら私、日本人かもしれませんね。」

 

〇日中両国に思うこと

-日本での生活は楽しいですか?大学では何をしています?

「楽しいです!日本に来てからは泣いてません。」

「日本語教育センターでは文法や日本文化の勉強をしています。他にも就活対策の授業もあります。ビジネスマナーなどを教えてくれますね。」

「サークルは自然が好きなので農業系。埼玉の本庄で野菜のマーケティングを考えるサークルに入っています。」

-日本のどんなところをいいと思う?

「日本人と性格が合います。中国はたくさん人がいるから、性格の良い悪いも幅広いです。でも日本人は、みんな穏やかです。人と人が丁度いい距離感だと思います。」

-確かに中国には13億人もいますからね…。

「日本人は本当に繊細。私もそうですが、中国人は大雑把かもしれません。」

-こういうとですが、日本人もガサツですよ。国に対する印象ってありますよね。

「それなら、日本人は中国に偏見が沢山ありますね。ご飯を残さないと失礼というマナーは、中国人の私でも聞いたことありません。治安が悪いとも言われますが、上海は中国でも一番安全です。街もきれいですよ。今は日中関係も悪いですが、中国の若者は日本好きですよ。小さいころからドラえもんやコナンを見て育ちましたから。」

上海の夜。東京と見間違えそう。

 

〇これからの人生設計

-ウェイさんはこれからどうするんですか?中国に帰る?

「いいえ、中国には帰りません。日本で就職します。営業職に就いてみたいです。営業職だと会社のことを隅から隅まで知ることが出来ると思いました。」

-日本に残るのか。そこまで日本を好きでいてくれてありがとうございます。

「日本が大好きです。ずっと日本に住みたいですね。そして、中国に帰っても就職は大変です。大卒の価値が落ちていて、修士博士じゃないとエリートな仕事ができない。私はあまり困らない立場ですが。」

 

〇まとめ

ウェイさん、思ったよりも直感的でしたね。インスピレーションから日本を好きになり、エイヤっと訪日決定。そしてそのまま日本に住み続けよう、とまで決めてしまう思い切りの良さが痛快です!インタビューは全部日本語で行いましたが、彼女、来日後から日本語のスピーキング&リスニング学習を始めたらしいです。1、2年目とは思えない流暢さ。頭の良さを感じます。

そして彼女の半生には、コスパやタイパを重視する生活への対抗軸が見えます。それは「自分の好きなことを思い切ってやってみること」です。たとえ効率的でなくても、自分の生活をフラっと楽しんでみること。それが却って人生に幸福をもたらすとすれば、面白いと思いませんか?もしかすると、我々は自分の感性をもう少し強く信じてみるかもしれません。そう思わされたインタビューでした。

インタビューにご協力いただいたウェイさん、ありがとうございました。

大場莞爾