ぶらり中華旅日和 西荻窪街角饅頭店「吉祥天」(後編)

人を知る

(後編)

・台湾帰郷、そして再来日

ー台湾に帰られた後の事も教えてください
「台湾に帰った時、何もないゼロの状態でした。そこで初めて、自分が将来死ぬまでやりたい事を考えました。すごく考えました、おばあちゃんの角煮も食べながら笑。
でもやっぱり、食に関わる仕事がしたい。たとえ食でなくても、さっきの映像の様に何かを作って、人を感動させる仕事がしたいと思いました。
それまで2社の商社に勤めてきて、これは私に合わないと感じました。すごく固いですから。もちろん、給料も高くて、今の仕事にも当時の実行、改善という考え方は活きてます。でもやはり向いてないと感じました」

ーその様に思い立った後には、何をしたのでしょうか?
「勉強に行ったんですよ。例えば肉まんの作り方とか。あまり食事を作った事がなかったので。特に小籠包や肉まんなど中国伝統の小麦粉を使った料理に興味があったので、勉強して35歳位の時には、中式麵食加工(發麵類)の資格とさらに台湾の調理師免許も取得しました。
その後は、また就活をしました。日本語も理解できて、この様な免許も持っている事で、日本と関わる事も多い台湾の食器関連の貿易会社に誘われ、入社しました。
入社して1ヶ月後、日本駐在を言い渡され、また日本に来ました。2014年の事です。東京の中野にオフィスがありましたよ」

ー再来日後はどの様に過ごしていましたか?
「朝から貿易会社の仕事をして、6時に会社を出たら、6時半から9時半まで調理の専門学校の夜間部に通っていました。そして2年後の2016年に試験を受けて、調理師免許を取りました」

ー昼にお仕事して、夜は専門学校という生活だったのですね
「そうそう。後、朝5時から8時までパン屋さんで修行していましたよ。学校から帰って12時に寝て、朝5時にパン屋さんに行ってました」

ーパン屋さん!どうしてパン屋さんだったのですか?
「私は生地をこねる時、饅頭を作る時はマイペースでいられて、すごく楽しいです!
なので、パン作りにも興味がありました。当時私はもう、、40歳でしたよ!少し恥ずかしかったですが、面接を受けました」

花巻を作るスタッフさん。相当の腕前との事…

ーそれでは、2016年の調理師免許取得後は何をされましたか?
「取った時に丁度、貿易会社の方でビルが売却される事になりました。会社から『どうするか?』と問われたので、会社を辞める事にしました。
実は、辞める少し前に今の西荻窪の物件が見つかったんですよ」

・「吉祥天」開店へ

ーそうだったのですね!偶然見つけましたか?
「そうです。いつか自分のお店を開きたいという夢があったので、私の物件探しの条件は、マンションではなくて一戸建てである事。あとは中野に住んでいたので、周辺の地域である事でした。

ー物件購入時の経緯も知りたいです。
「元々、ここでは老夫婦が八百屋さんをしていて、物件購入の前に面接がありました。私以外にもコンビニと民宿をやりたい人がいたみたいです。私は、『いつか台湾の食べ物のお店をやりたい』と話した所、翌日電話が来て『私に売る』と言ってくれました。さらに、『私たちは、この狭い家で3人の子供を育てあげたんです。だから邱さんも絶対できるよ!』と言われて感動しました」

ーちなみに、最近リフォームされたのですよね。こだわりはありますか?
「やっぱり、窓のデザインです。小さい頃におばあちゃんの家で見た窓を思い出して作りました。台湾は日本の植民地だったので、南方には昭和風の建物が多かったですよ」

邱さんの思い出の窓、特注したそうです

ーすぐにお店を開いたのですか?
「私は饅頭が作れるだけで、実は何をやるかまだ決めてなかった笑。だから、2年間沖縄とか台湾、色々な所に修行に行きました」

ーそれでは、2018年の開店当時で苦労した事はありましたか?
「免許は持っているけど、人生の大部分は貿易の仕事をしていて、料理の仕事はアルバイト程度だったので、苦労しました。
加えて私は、饅頭を買って肉を挟んで食べたり、ご飯の代わりに饅頭をおかずと一緒に食べる台湾の食文化を日本に持ってきたいと思っていて、最初は饅頭だけを沢山作って売っていました。しかし、『あれ、まんじゅう(饅頭)なのに中身の餡がないよ?』と多くのお客さんに驚かれましたよ笑。それで最初の半年間は、饅頭は売れなかったですね」

ー最初はお客さんも少なかったですか?
「最初の1ヶ月間は、ほんとうに全然お客さんが来なかったです。そこで弁当を始めると、徐々に増えてきました」

せいろに並べられた名物牛乳饅頭(まんとう)
蒸したての牛乳饅頭!!
できたては格別の美味しさ…
こちらも人気の黒糖饅頭。
ほんのり甘く、黒糖の風味が感じられます

・近況など…

ー現在、どういうお客さんに饅頭は人気ですか?
「最近多いのは、小さい子供を連れたお母さんです!小さい子供たちが饅頭大好きなんですよ。多分、子供にとって食パンに近いけど、黒糖とか入ってすこし甘くて美味しいと思います。幼稚園の子供達に大人気です」

ーちなみにタピオカはいつから売っていますか?
「開店当初からです!日本では、タピオカは一時的な流行ですが、台湾では常に身近な飲み物で、飲む事は習慣みたいな感じです。タピオカなどを扱う飲み物屋さんは、私が大学生位の頃から増えてきて、今ではコンビニより多いですよ!」

インタビュー中にご馳走になった麺線。
細い麺とコクのあるスープが絶品の小吃

ー美味しい麺線ありがとうございます!食材の仕入れ先などにはこだわっていますか?
「角煮には、皮付きの豚肉を使います。そして、煮る時には白糖ではなく黒糖を使います。黒糖はそれ以外にも黒糖饅頭とタピオカドリンクの黒蜜など色々な料理に使っていますよ。
普通の黒糖ではなく、台湾に一番気候が近い石垣島周辺の製糖工場と契約した黒糖を使います。なので、黒糖にはこだわっていますね」

邱さんこだわりの黒糖。
優しい甘さと共に、口の中で溶けていきます

 ー数年間、西荻窪でお店をやってきて、近所の方との交流、繋がりはありますか?
「すごくありますよ!隣の定食屋さんには美味しいご飯の炊き方を教えてもらって、鰻屋さんのご主人はタピオカが好きなので休憩中に買いに来てくれます笑。看板の字、壁の絵も近所の方がかいてくれました」

ーお店はコロナの影響を受けましたか?
「実は、、逆に売り上げが伸びました!というのもウチは開店以来テイクアウトだけの営業なので、弁当などがよく売れているんですよ」

ー最後に、老闆にとって台湾小吃はどういう存在か教えてください!
「台湾小吃というのは、安くて、いつでもどこでも手軽に食べられる食事だと思っています。私は、この台湾小吃の文化を日本でも広めたいです」

・インタビューを終えて

優しく、お茶目な邱さん(老闆)のおかげで、終始和やかな雰囲気でインタビューは進んだ。すごく丁寧にお話をしてくれて、サービス精神も旺盛な方だった。
個人的に、現在の商売を営むきっかけや考え方、料理、店のデザインなど様々な所に故郷の台湾、特に5歳まで共に過ごしたというおばあ様の影響の大きさを感じた。
この記事だけでは、老闆の魅力を100%伝えきれない部分がある事を残念に感じるが、是非に足を運んで実際に会いに行く事をすすめたい。

開店した2018年以来、テイクアウトだけの営業だった吉祥天さん。夜限定で店内での営業も12月からスタートする(完全予約制)。

 

「吉祥天」について

・「吉祥天」公式サイト
https://kissyouten.com

・住所:東京都 杉並区西荻北3-11-18

・定休日:不定休

 

nishikawasatoshi