紅山動物園入り口
この記事では、南京研修参加者のひとりとして、フィールドワークや南京大学学生との交流で得た知見を共有します。真面目なフィールドワーク体験を通して得た知識から、海外の大学生とお互い完璧ではない英語・日本語・中国語でなんとか意思疎通を図るところから交流を深めていくという私にとって初めての経験を通して得た感動まで、ちょっと面白い小話を交えながら書いていくつもりですので、最後まで読んで頂ければ幸いです。
まず私のチームのチームメイトについて少しご紹介したいと思います。チームは東京大学の学生1人、南京大学の学生2人で構成されます。私のチームは日本語学科の四年生Aさん、社会学部の三年生Bさんの2人でした(本研修は授業として構成されている一方、この記事はサークル掲載のものなので個人名は伏せさせていただきます)。Aさんは日本語が流暢で、ハキハキした物言い、第一印象は真面目でしっかり者のイメージでした。Bさんはなんと4月から京都大学に留学予定(!)、日本語の勉強は始めたばかりですがイギリスへの留学経験があり英語が堪能、そして何より南京渡航前のオンライン会議の時点で彼の博識さに圧倒されていました。
社会学専攻であり私たちの中で一番フィールドワークの経験が豊富なBさんが事前会議で出してくれた案の中から、先生との相談にも基づき、私たちはフィールドワーク先を紅山動物園に決めた。
初日はまず全員が一堂に会して東大の先生からフィールドワークの手法を学び、チームメイトと初のご対面。それからチームごとの活動を開始、私たちはさっそく紅山動物園へ向かった。Aさんが動物園職員の方との連絡を担当してくれていて、初日はまず職員の方に案内してもらいながら観光客目線で動物園を見て回ることになった。この日は雨だったのだが、見学し始めてびっくり。動物園なのに動物がいない。理由は職員の方が説明してくれた(のをAさんが日本語で、Bさんが英語で訳してくれた)。動物たちはガラス張り、雨ざらしの展示ブースとは別に、展示ブースと穴で繋がった室内ブースに移動することができ、その日のように天候の悪い日は室内ブースで雨風を逃れることができるのだ。他にも動物たちが過ごす環境にはさまざまな工夫があり、展示ブースにも隠れることのできる穴や茂みがある。しかし営業時間中に動物を見ることができないとなると営業に支障がでるのではないか。疑問をぶつけると職員の方はモニターの前に私たちを連れて行ってくれ、モニターを通して穴の中の様子が一部観察できることを教えてくれた。他にも、ガラスに掲示してあるQRコードを読み取るとまだ展示の始まっていないカワウソの赤ちゃんの様子が見れるなど、動物を直接観察できなくても観客を楽しませる工夫がなされている。掲示されている説明も図鑑のような無機質なものではなく、職員手書きのポップで、動物の種の説明のみならず個体それぞれの名前、個性、そして可愛らしいイラストが愛情たっぷりに書き込まれている。
これは3日目のインタビューの際に聞いたことだが、彼らは動物園は動物を観客に見せることだけが目的なのではなく、職員である彼らの仕事も客に提供できるものであると考えている。職員の方の仕事については後ほど詳しく触れたい。
ここで前もって調べた紅山動物園の展示の特徴をご紹介しておきたい。 2010年、動物愛護や生活環境の改善のため、紅山動物園は動物ショーとエサやり体験を中止した。また多くの動物館舎のリフォームも始まり、山や川、急斜面や谷など、野生の生活環境が再現された。
鹿舎の傾斜とヤマアラシ舎の傾斜。草木が敷き詰められていて視界は悪いが野生に近い環境。
もう一つ展示の工夫として面白かったのがサル山である。サル山は日本の動物園でもメジャーな展示の一つであるため、中国の動物園にも同じような展示があるのかという驚きとともに、不思議な特徴を見つけた。サル山の周りを堀のように水が囲んでいるのだ。これは野生の環境に近いということはないだろうしどういうことか。職員の方にたずねると、面白い答えが返ってきた。一つは人間との過度な接触を避けるため。日本でもお馴染みのサル山だが、他の展示と異なりガラスによる隔たりがないため、観客が手を伸ばそうと思えば伸ばせてしまうし、勝手に餌やりをしてしまうかもしれない。そのような接触を防ぐための堀だそうだ。もう一つは、サルが工夫をして遊んだり体を動かすための設備の工夫だそうだ。たしかに、言われてみると水面に浮かぶ木をボートのようにして手で巧みに漕いで水面を進むサルや、浮き輪に捕まって水面を漂っているサルがいる。このように、動物の習性や行動原理を刺激する工夫もなされているのだ。このような工夫は2日目に飼育員の方に密着した際、餌やりにも見られた。
動物園の展示・設備自体の観客に向けた工夫を一通り学んで、フィールドワーク1日目が終わった。雨が降る寒い中一日中歩き回ったので、面白かった反面疲労も困憊だったが、キャンパスのある駅に帰ると2人が南京の美味しいものを紹介してくれ、疲れも吹き飛んだ。食堂を探す道中まず屋台で梅花糕というクレープのようなデザートを買って食べ歩きをし、現地の学生になった気分を楽しんだ。2人が選んでくれた食堂では、2人に勧められるままに注文し、(Aさんが日本人の味覚を心配して何か頼むたびに「できる?」と聞いて食べられるか確認しつつ「いってみよう!」と励ましてくれるのがお母さんみたいでかわいかった)小籠包と鸭血粉丝汤を食べた。鴨の血や内臓が入っていると聞くと少し身構えてしまうが、プリプリの血の塊は思ったより癖がなく、食感が良かった。味もパクチーが入っていてベトナムのフォーなどに近くアジア人好みの味だ。レストランを探しながら、そしてメニューを見ながらあれは食べたことあるだとかこれは食べたことないだとか話して盛り上がり、食事の話はやはり人と人を繋ぐな、と食事の新たな楽しみを発見した。
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