東大留学生インタビュー ドルギオンさん

人を知る

流暢な日本語に、可愛らしい笑顔。インタビュアーの私たちと話す姿だけを見れば、彼がモンゴル出身の留学生だと気づく人はそう多くないのではないでしょうか。

そんな彼の名前は、ザイアバートル・ドルギオンくん。モンゴルからの留学生で、文科一類に所属しています。3年生からは、法学部で政治学を学びたいと言います。

 

なかなかのナイスガイです。

ードルギオンくんはモンゴルから留学してきていると思いますが、まず簡単に自己紹介をお願いします。

「ザイアバートル・ドルギオンって言います。日本に来たのは去年で、東京外国語大学の留学生センターというところで1年間のプログラムで勉強した後に、東大に今年から入学しました。今、文科一類の一年生です。学部も決まっていて、法学部の第3類の政治コースという、政治学を主に学ぶコースに進学予定です。よろしくお願いします。」

ー留学先を日本に決めた理由は?

「なんか言葉ではうまく説明できないですけど、そもそもずっと大学は日本にいきたいと思ってて。やっぱり一番大きかったのは、言語とか文化に関して結構慣れていたので、それで自然に。元々親の仕事で小学校の時に3年間くらい日本に住んでて、日本の小学校に3年間くらい通ってたんですけど、それでちょっと日本語勉強して、モンゴルに戻ってからも結構日本が好きだったので日本語の勉強を続けて。あんまりこう、特別に考えていることは特にないかもしれないです。」

「自分がモンゴルの大学にずっと4年間通ってるのはあまり想像できなくて。大学って多分、人生で貴重な時間だから、それを国の中で過ごすのもなんか。せっかく留学できるチャンスがあるんだったらそれを使いたいなと思って。」

「あとは単純に、勉強するっていう面でも環境は絶対日本の方がいいので。それもあるし、日本語ができたので、せっかくやったら日本語を将来使いたいなと思っていたので、日本に留学して日本語で勉強するのが一番いいかなって。」

「東大に来た理由は、元々僕国際政治学とかやりたかったので、その分野で一番環境が整っているのはやっぱり東大かなと思いました。」

ー政治学を勉強したい理由はなんでしょうか?

「ん〜、そうですね、元々法律とか法学とかにも興味があったんですけど、でも、日本で法律の勉強しても、多分日本でしか仕事できないなと思って。政治学だと普遍的というか。それは知識があればモンゴルでも使えるし他の国でも使えるし。将来外交官とかも興味あったから、国際政治学を勉強したら直で知識を使えるので。あと双子がいるんですけど、双子がめちゃくちゃ政治マニアみたいなやつで、それに影響受けたっていうのはあるかもしれないですね。」

ー小学生時代にルーツがあるのですね。小学生の時に日本に来て、それから日本を好きになった感じですか?それとも、事前に日本のことを結構知っていたという感じでしょうか?

「日本に来たのが小学校3年生の時なんですけど、1、2年生の時はモンゴルでドラゴンボールが放送されてて。でも当時はこれが日本のアニメとかあんまり思ってなかったんですけど、日本に来てから『ドラゴンボールって日本のやつだったんだ』って知って。そういう小さい頃からの経験っていうのが日本に来て繋がって。モンゴルに帰ってからも、高校は日本に留学行く人が多くて日本語を勉強できる高校だったので、ずっと日本との距離は近かったです。そういう面で、日本留学は一番自分としては身近なものだったと思います。」

ー子供の頃、転校するとか国を出るとか、そういうことに対して嫌だな、とはならなかったんですか?

「小学校3年生とかだから、そもそも拒否権がない(笑)。でも今は、すごい感謝してます。日本に来てなかったら、日本に留学しようって思わなかっただろうし。それでいろんな経験をできてるんで、親には今になって感謝してるって感じです。」

「やっぱり日本に来てから最初の半年間は、そもそも言葉が通じないからそこは一番辛かった。最初は学校行きたくなかったな、みたいな思ってたっていうのは覚えてます。」

「インターナショナルスクールではなく、地元の小学校に入ったって感じです。一応留学生、というか外国人の子は結構いました。でも三、四人とか。その小学校は外国人の子供が多かったからか外国人の子供のための日本語教室みたいなのが設置してあったので、それでゼロから日本語を勉強できる、みたいな。日本人向けの環境(授業)だけだったら、みんな早いスピードで進んでいくから、それだと日本語習得できたかわからないですけど。日本語教室の先生に助けてもらって。環境は良かったと思います。」

ードルギオンくんは国費留学生ということですが、東大に入学するまでのモンゴルでの留学プロセスをもう少し詳しくお聞きしたいです。

「留学のプログラムが、1年間留学生センターで勉強して、そこの成績で大学が決まるっていう、そもそも1年間外大と4年間他の大学っていう5年間のプログラムになってます。」

「日本に来るのに結構時間がかかるんですよ。6月に(モンゴルの高校を)卒業して、6月に試験があって、結果出るのに1年くらいかかって。12月に結果が出たら4月に日本に来てまた1年予備教育がある、みたいな。モンゴルの場合だと、大学に入学するまで2年くらいかかります。」

「本当にめちゃくちゃ家がお金持ちの人だったらすぐアメリカとか行く人もいます。そういう人は奨学金とか気にしないので。でも、基本的にモンゴルから留学しようとなったらみんな基本的には奨学金もらう方法を見つけるのは当たり前、みたいな感じですね。」

ー日本に留学するために必要な知識などはありますか?

「単純に数学とか英語とか日本語とか。数学もモンゴルで教わった内容と違うので、日本のための勉強をしないといけないっていう。」

「ほぼ独学で勉強していました。あとは高校の先生とかに聞いたりとかはしてましたけど。でもモンゴルで習わない単元とか普通に入ってたりするんで、それを自分で勉強しなきゃいけない。英語も『ザ・受験英語』みたいな。だからめちゃくちゃ文法の細かいものを聞いたりとかそういう感じなので。そういうのも、日本の学生が使ってる本とかで勉強しないとモンゴルで売ってる本にはそういうのは載ってなかったですね。」

ー受験勉強の時点ですでに日本語ができていないと厳しそうですね。

「文系はそうですね。理系は別に日本語がめちゃくちゃ上手くなくても、多分数学とか理科とかめちゃくちゃできてたらなんとかやっていけると思うんですけど、文系って結局読んだりとか話したりとか。例えば僕の専攻でいう政治学だと、いろんな文献読んでやらないといけないんで、それは言語ができないときついと思います。」

 

日本に対するドルギオンくんの印象についても聞いてみました。

ー日本の特に好きなところは何かありますか?

「ま、なんか、社会秩序はしっかりしてるよなって。一般論みたいな(笑)、一番安全で、一番人がしっかりしている国というイメージがあって。やっぱり普通に暮らしていて感じますけど、バスとか電車とか、全て社会がちゃんと秩序通りに動いてるっていうのが僕はすごく好きです。モンゴルは今そうではないので。それと比較すると、すごく暮らしやすい国というか、そういうふうに思います。」

ー逆に、日本のネガティブな点は何かありますか?

「あ〜、そんな特にないんですけど・・・、外国人として日本に暮らすって考えると、外国の文化だったり、「外国人」っていうものに対してあんまり慣れていない人が多いというか。日本語で話したら大丈夫なんですけど、僕は名前が全部カタカナなので名前の段階で外国人だってすぐ思うので、あんまり慣れてないという感じというか。やっぱり自分達の文化の中で、そこに「外国人は普通である」という意識があんまりないかなって思います。でもそれが、必ずしも悪いとは思わないんですけど。」

とても考えさせられる気づきです。たしかに日本の中での私たちはマジョリティーであってマイノリティーになる経験があまりに少なく、外国の方とお会いすると身構えてしまう場面も多々あるかもしれません。

 

次第に、ドルギオンくんの将来についての話に移っていきます。

ー将来は、日本語を使った仕事をするんでしょうか?

「日本と関係がある仕事はしたいと思ってます。日本で就職するかはわからないですけど、今興味があるのは外交官とか。一応所属するのはモンゴルだけど、日本とも関係があるっていう。あと、それは結局、日本語とか英語とかを大学で学んで直接使えるからっていう理由からです。」

「外交官になりたいと思ったのは中学の頃から。できればいろんな国に行ける仕事がしたいと思ってたので、それで真っ先に思い浮かんだのが外交官。今は他の仕事もありかなと思って迷ってるんですけど、でもまあ、数年後なんで、決めつけるのはまだかなと。」

「大学で学んだことを無駄にしないっていうこと、が一番かなって。国際政治学とかやっても、例えば、ビジネス系の会社に入ったら多分それを使う機会あんまなくなっちゃうと思うので。そうじゃなくて、その大学でやったことをしっかり使える仕事に就きたいなと思ってます。」

「留学生は割と、国の発展と個人の幸福を天秤にかける、っていう感じは結構あって。留学する人は、結構良い職を見つけやすいので、海外で良い職場を見つけると、給与がどうなるかわかんないし、それを捨てるリスクを負ってまでそういう環境に戻ろうっていうことを考える人が結構少ない。そこが難しくて、国の発展と言うんだったら、絶対モンゴルに戻って何かした方がいいと思うんですよ。でもそれが果たして海外で就職するより自分にとって幸福なのかと言ったら、それが結構難しくて。個人的にもそうです。外交官って言っても、モンゴルの国家公務員の待遇がいいかって言ったら給料はめちゃくちゃ低いですし。じゃあ自分が日本で就職したら、モンゴルよりは高い給料のところに就くだろうし。そこをどうとるかっていうのが留学生の課題でもあるかなと思います。僕もちょっと考えてます。どういう仕事をどういう国でするかっていう。難しい問題だと思います。」

ー大学院進学も考えてますか?

「はい、考えてますね。理想的なのは、修士は日本で、博士は他の国っていうのは一番かなとは思います。博士までとるとして、日本にいると、10年くらい日本にいることになっちゃうんで、それは流石に他の国に行って他の文化見た方がいいかもしれないと思ってる。日本とモンゴル以外の他の国がいい。できれば英語を使う国の方がいいかなって思ってますね。」

 

ドルギオンくんにお話を聞いていくと、日本の学生に伝えたいことも見えてきました。

日本とモンゴルで、何か学生の考え方の違いは感じますか?

「やっぱり違うのは、モンゴルって、国を発展させようっていうことを考えてる人が多いんです。それこそ留学する人は将来絶対知識活かしてモンゴルを発展させようと考えてる人多いんですけど、なんていうんですか、日本がそもそもかなり発展しきってるからだと思うんですけど、日本をこう良くしようって言ってる人は少ないかなと思います。モンゴルって『将来どうしたいですか』って聞いたら『モンゴルのここをこうしたいです』っていう人が結構多いんですけど、日本はあんまりそうじゃないかなって。」

「モンゴルって、いろんな面でいろんな問題があるから、それをこう変えた方がいいって考えを持つ人が多いのは、僕はいいんじゃないかと思います。でも、かといって日本の学生がそう言ってないとか日本のことを気にしてないから悪いとは思わないです。日本がそもそもしっかりしてる良い国だから、そこにわざわざ無理やり何か変えようっていう志を持たなくてもいいんじゃないかと思うんです。」

ーカルチャーショックはありましたか?友達と話していて感じた違和感などはありますか?

「そうですね、モンゴルについて知ってる人は少ないなって。今は大学生なので聞かれることはないんですけど、やっぱ聞かれるのは、多分イメージが遊牧生活が一般的にベースになってて、だから小学生の頃とか馬に乗って学校行ってましたか、とかそういうのは『え?』って。(笑)」

「それも、日本で暮らしてると多分、モンゴルについて見る機会はあんまりないと思うんで、それはそれで仕方ないと思うんですけど。でもやっぱりモンゴルって聞いたら詳しく知ってる人は増えてほしいなって思いますね。」

「モンゴルについて知ってる人が増えれば、もっと嬉しいので。観光についてでもいいですし。モンゴルについて知って、モンゴルに来てくれる人が増えれば。みなさんもぜひモンゴルについて調べてみてください。」

ドルギオンくんの生い立ちや思い描く将来像をお聞きする中で、質問する側の私たちも考えさせられることが多かったインタビューとなりました。

モンゴルという国に対する私たちのイメージは、世界史の教科書でみた草原や遊牧民が大半を占めているかもしれません。しかしそれだけがリアルなモンゴルの姿なのでしょうか。なんとなく持っていたイメージを一度取り払い、リアルを覗いてみること、それがこれからの交流には必要かもしれません。

 

インタビュアー:田美研、吉野真央、大場莞爾、イ・スンモク、岸ふみ、広田瑞貴

文責:岸ふみ

大場莞爾