話し方の極意とは 〜子どもとの接し方から学ぶ関係構築入門〜

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小学生向けのイベント「日本と中国の漢字を楽しもう」で講師を務めた高橋恵子先生とお話をしました。「日本と中国の漢字を楽しもう」のイベント詳細につきましてはこちらよりご覧ください。

高橋 恵子 (たかはし けいこ)さん (写真左)
1961年静岡県沼津市生まれ。
学生時代のラジオパーソナリティを皮切りに、群馬テレビ局アナを経て、フリーアナウンサーに。1993~1995年、2011~2017年の2回にわたって、計8年間中国国際放送局日本語部(北京放送)に勤務。
2017年〜2021年工学院大学孔子学院院長。
現在はフリーアナウンサーとして活動。
趣味は旅行と走ること。

話し方の極意とは
〜子どもとの接し方から学ぶ関係構築入門〜

私自身、これまでにたくさんの人々とインタビューならぬ「お話」をしてきた。南京で1600年以上の歴史がある「雲錦」の技術を継承する職人さんと。玄武湖の湖畔で早朝に体操をする老夫婦と。東京大学のたくさんの留学生たちと。

私がインタビューではなく、あえて「お話」という二文字を使うには意味がある。相手を理解して、相手と仲良くなるためには相手と対等な目線で語り合う必要があるからだ。インタビューという言葉はこちら側が相手より目線を高く保ち、相手の胸の内を一方的に開けようとしている気がしてならないのであまり使わない。ちょうどこの団体、「茶話日和」のコンセプトもそうだ。コンセプトはお「茶」を片手に椅子に座ってお互いの国の文化、慣習について深く「話」す、これこそ国際交流の本来のあるべき姿であって、相手を理解し、仲良くなるための一番良い方法だと思う。

しかし、これはあくまで相手が大人の場合である。相手が大人の場合、こちらが「お話」をしたいというスタンスでいくと、大抵の場合は向こうも心を開いてくれる。相手が子どもの場合はどうだろうか?恥ずかしがり屋で緊張して返事をしてくれないかもしれないし、初対面の大人に話しかけられて恐怖すら感じてしまうかもしれない。実際、今回私がスタッフを務めた小学生向けのイベント「日本と中国の漢字を楽しもう」でもそうだった。普段子どもと接する機会がなかったため、このような話題について考えたことはなかったのだが、子どもと仲良しの関係を気づくにはどうしたら良いのか?その答えをイベントで講師を務めた、子どもへのプロフェッショナルである高橋恵子さんに求めた。そしてその子どもへの話し方の極意をどうやって大人の世界に応用するかを読者に還元してみたい。以下は私が感じた話し方の極意である。

 

極意その一:氷山の九角を褒める

人間誰しも褒められると嬉しくなってモチベーションが上がる。褒められると相手に対して心を開きやすい。私も子どもの頃は、褒められて伸びるタイプであった。しかし、その褒め方もひと工夫するとよりよい褒め方になって相手と仲良くなりやすい。例えば、子どもが描いた絵に対して「上手だね」と「センスいいね」と褒めるのはどちらがよりよいだろうか。実は後者の「センスいいね」の方がよりよい褒め方である。理由としては「上手だね」が絵を描き終わった後の今自分の目に映っている結果だけを褒めているのに対して、「センスいいね」は絵を描き上げるまでの過程、つまりそのテーマを選んできたことや、その子がこれまでに培ってきた感性までを褒めているからである。これを高橋恵子さんの言葉に置き換えると「氷山の一角を褒めるのではなく、氷山の九角をほめる」ということになるのである。よくよく考えてみると、これは子どもだけでなくて大人同士の関係を築く時にも役立つ。「その服綺麗だね」と褒めるより、「おっ!その服センスがいいね!」と褒める方が、相手のより多くの項目を褒めることができて相手と仲良くなりやすいのである。

 

極意その二:相槌をひと工夫

子どもが何かを話してくれたとき、「そうだよね」と相槌を打つのと、「そうなんだ」と相槌を打つのはどちらがいいのだろうか。答えは後者の「そうなんだ」である。これは今この文章を読んでいるみなさんも薄々日常生活の中で感じていることかもしれないが、「そうなんだ」と相槌を打った方が、話は盛り上がりやすいし、広がりやすい。「そうだよね」と相槌ばっかり打っていると話している側も「相手が知っていることを得意げに話してもつまらないよな」とどんどん話す気が失せていくのである。感受性が豊かな子どもならなおさらだ。だから相槌は肯定よりも気づきをもとにして打った方がよいのである。他にも子どもにかける言葉としてよくあるのが、「頑張って!」である。子どもを応援していてこの言葉自体、確かに素晴らしい言葉なのだが、高橋恵子さんは「頑張ってるね」がよりよい言葉なのだという。「頑張って!」と自分が声をかけた子どもはもうすでに頑張っていて「頑張ってるもん、これ以上できない」と思うかもしれない。それよりかは「頑張ってるね」と声をかけてもうちょっとやってみようという気にさせた方が良いのである。

 

極意その三:マイナスをプラスに

いわゆるプラス思考だ。子どもが発したマイナス言葉をいかにプラス言葉に変換できるかである。今回のイベントでもマイナス言葉を口にする子どもがたくさんいた。具体的にどうするのかというと例えば「疲れた〜」に対して「頑張ったじゃん!すごい!」とか、「もうできないよ〜」に対して「もう少しやってみたら解けて嬉しいかも!達成感が得られるかも!」みたいなことである。子どもとの関係を築く上でプラス言葉をお互いの口癖にした方が、お互いに頑張ることができる。科学的には口に出したプラス言葉は大脳の側坐核に伝わってそこから目的を達成すべく体全体に伝わるらしい。プラス思考は我々大人の日常生活の中でも役に立つ。

 

・風邪を引いた→おうち時間を充実させるチャンス
・いつもの道が通行止め→違う道を通って景色を楽しもう
・電車に乗り遅れた→駅の中を観察してみるか。美味しそうなジュースが売っているかも。
・飲み物を床にこぼした→片付けるついでに床の掃除ができるじゃん
・すみません→ありがとう

 

すみませんに関しては私が日常生活の中で最もよく耳にするマイナス言葉なのかもしれない。もちろん、相手から借りているものを壊してしまっただとか、期限を守らなかったとかで本当に悪いことをしてしまった場合には「すみません」を使うべきだが、例えば落としたものを拾ってくれたり、食べ物を奢ってもらったりしたときは「ありがとう」の方が適している。その方が相手との距離も近くなっていいのではないか。

 

 

極意その四:連想

最後は単純である。初対面の子どもと接するとき、仲良くなる秘訣は話題を広げられるかである。逆に話題を広げるのに失敗すると無言になって気まずい空気が流れることになる。ではこの話題を広げる力をどう養うのかということなのだが、それが連想ゲームなのである。なんだ、簡単じゃないかと思ったそこのあなた。この連想ゲームはマジカルバナナのようにテーマがコロコロ変わる連想ゲームではなくて、テーマを一つに固定していかにそのテーマに関連する言葉を引っ張ってくることができるかというゲームである。(マジカルバナナのように「りんご」→「ニュートン」→「物理学者」と話題がコロコロ変わったら話はそもそも広がらない。深掘りができない。)

私も高橋恵子さんと「秋」をテーマに固定して実践してみたのだが、これがなかなか難しい。高橋恵子さんがいうには引き出しをひとずつ開けていかないとすぐに混乱してネタ切れになるそう。

これらのことは全てアナウンサーで街頭インタビューをするときに役立ったと本人は語る。連想ゲームもアナウンサーの訓練でよく実践していた。他にも接し方のポイントをいくつか教えていただいたのだが、これくらいに留めておこう。私が高橋恵子さんの「日本と中国の漢字を楽しもう」のイベントに参加したとき、彼女の子どもへの接し方が小学校の先生みたいであると不思議な感覚を覚えたのもこれらのポイントを無意識のうちに実践できているからなのだと思った。子どもに接するときだけでなく、大人にとっても役立つことがたくさんある有意義な時間であった。

以下は私と高橋恵子先生お話の抜粋である。上では紹介しきれなかったポイントもいくつか載っているので読んでみてほしい。ちなみに私が質問のなかで高橋さんとは呼ばずに恵子先生と呼んでいるのは本人からの要望であった。少々緊張していた私に対して下の名前で呼ぶことで場の空気を和ませるために配慮してくれたのだと思う。終始笑顔で話していてとても楽しかったしアナウンサーはやっぱりすごいスキルを持っている人なのだなと身をもって実感した瞬間でもあった。

平柳: 恵子先生はアナウンサーということですが、普段テレビのニュースをみているとアナウンサーは時事問題などをきちんと大人の言葉を使って大人の視聴者向けにわかりやすく伝えるというのがメインの仕事だと思います。それなのに私自身ワークショップに参加して恵子先生が子どもへの接し方に精通していることに大変衝撃を受けました。もともと子どもたちと接する機会は多かったのでしょうか?

恵子先生:実は大学生のときに私は教育学部幼児教育科で学んでいて、小学校や幼稚園に教育実習へたくさん行きました。そのときの経験が今回のイベントでも役に立ったのではないかと思います。また、相手が大人でも子どもでも「情報をわかりやすく伝える」という点では共通しています。そこでアナウンサーでの経験が活きてきたのだと思います。

平柳: 小学生向けのイベントは世の中に山ほどあると思いますが、恵子先生のようなアナウンサーの方が講師になって小学生に何かを教えるというイベントはかなり少ないと思います。アナウンサーだからこその自分の強みだとか、アナウンサーのスキルが今回のイベントにどう活かせたのかを教えてください。

恵子先生:全体の進み具合を見てタイムマネジメントをする技術、そして子どもたちに話しかけて子どもたちの持っているアイデアを引き出したりするのはアナウンサーで培ったインタビューの技術が役に立っているのだと思います。あと、今回のイベントに参加して気がついたのですがアナウンサーと小学校の先生は結構似ていますね。

平柳:「日本と中国の漢字を楽しもう」は今年で2回目の開催になると思いますが、去年のイベントから変更した点、パワーアップした点なありましたら教えていただけますでしょうか?

恵子先生:参加する子どもたちによってどんな展開になるのかわからないのでイベントの基本的な内容は変えていません。子どもたちの発想や考えを大切にするということを軸にしています。ただ、今年は印刷博物館とコラボしました。イベントの前に博物館を見学してもらうことで漢字の発展と印刷の発達にはどのような歴史があるのかを子どもたちに学んでもらいました。

平柳: ワークショップでははじめに中国の漢字の歴史やおもしろさを伝えていましたが、なぜそのような着眼点をもったのでしょうか?

恵子先生:いきなり本題に入るよりも、身近な漢字を紹介してあらかじめ漢字の面白さや漢字の仕組みを子どもたちに知ってもらった上で漢字を発明してもらったほうが子どもたちも楽しめるのではないかと思ったからです。

平柳: 私自身参加してみて結構、内気な子どもへのアプローチが難しいと感じたのですが、内気な子どもが困っていた場合どう話しかければいいか、何かコツはありますでしょうか?

恵子先生:実は信じてもらえないかもしれませんが私も小さい頃すごい内気な子どもで、さらに一人っ子でしたので外部の人に話しかけられるのがすごい苦手で不思議な感覚でした。自分のその幼少期を思い出してそのときの自分がどう話しかけられたら嬉しいか、抵抗がないかを常に考えていました。具体的にははじめに相手が返しやすい言葉「こんにちは」とか、「何年生?」とかをつかって質問を投げかけることです。「なにか困ってるの?」と聞かれても緊張でうまく言語化できない子どもたちもいるのでまずは相手が必ず答えられる質問を投げかけて相手の緊張をほぐしてから本題の質問をすることが大事なのだと思います。

平柳: 小さい子向けのワークショップで大切なことはたくさんあると思いますが、その中でも1番大切だと思うことは何ですか?

恵子先生:こちら側の価値観を押し付けないことですね。子どもたちの発想とか気持ちを大切にしてあげることです。ついついもどかしくなってあれこれ指図したくなるときがあると思うのですが、そのときはぐっと堪えて子どもたちが持っている大人が忘れてしまった自由な発想を大切にしてあげることです。

お忙しい中、お話をしてくださった恵子先生にここで感謝申し上げます。

平柳 智明

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